この文章は、1996年3月において、翌年の3月の出来事を想像して書いたものです。ですので、一部事実とは違う事柄が記載されています。また、ゲームの内容は最終的な製品とは異なっています。
1996年3月8日
マコト君は、福岡市内に住む高校生。大のサッカー好きで、PS(プレイステーション)ユーザーでもある。ちなみに彼女はいない。そんなマコト君が「ワールド・ネバーランド」という不思議(?)なゲームを購入したところから、この日記は始まる。
3月X日
FF VIIも解き終わり、そろそろ、次のゲームが欲しいなと思って、自転車でゲームショップに出かけた。それにしても、FFは面白かったな。さすがスクウェア。PS持っててほんとによかったと思う。
PSで発売されるソフトは、最近特に多くなった。ショップにもたくさんの新作ソフトが並んでいる。その中でぼくが選んだのが「鉄拳3」と「ワールド・ネバーランド」。「鉄拳3」は、もうPSでは定番となっているから、無条件で買い。でも、今回ポールが弱くなってるってのは不満だ。「ワーネバ」はちょっと変わったゲームみたいだけど、雑誌の記事を読むと何となく面白そうだったので、買ってみた。ひょっとしたら、はずれかもしれないなあ。ま、今月はお小遣いに余裕があるから、いいや。
家に帰って、さっそく、PSの電源を入れて「鉄拳3」をプレイする。げげっ、本当にポールが弱くなってる。こんな隙だらけの必殺技じゃ使えないよ。しょうがない、平八にキャラチェンジだ。
そうこうしてるうちに、12時になってしまった。これ以上ゲームしてると、お母さんに怒られてしまう。「ワーネバ」は袋も破ってないけど、もう、今日のところは寝よう。
3月X日
平八をそこそこ使いこなせるようになったので、昨日やんなかった「ワーネバ」を起ち上げる。あっさりしたオープニング。でも、センスはなかなかいいんじゃん。ぼくは、マニュアルは読まない主義だ。やってて分かんなくなったら、そのときに読めばいい。とりあえず、ゲームを始めよう。
えーと、まずは、主人公キャラの初期設定か。名前、性別、血液型、星座を入力しなきゃいけないみたいだな。性別は男、血液型はO、星座は水瓶座にしよう。年齢は18歳から始まるのか。あとは名前だ。ここでいつも悩むんだよね。魅力的で、カッコいい名前を付けてあげたいと思うんだけど、なかなか思いつかない。いいや、自分の名前といっしょの、"マコト"に決定だ。ゲームスタート! ……でも待てよ。雑誌で読んだんだけど、このゲームは主人公が世代交代して行くんじゃなかったっけ。てことは、"マコト"はゲーム序盤で死ぬのか? ちょっと気になるが、"マコト"には、とりあえず、がんばってもらうしかない。
おっ、"マコト"とその父親らしき人物の会話が始まったぞ。ゲームスタートのイベントだな。
「マコトよ。お前のひい爺さんは、ネバーランド王国建国の際に…」
「わかってるよ、父ちゃん。戦場で王様を助けて、ご褒美に紋章をいただいて、兵士としてお城に仕えたんだろう」
「そうだ。だから、おまえも立派な兵士になって、しっかりと王様のお役に立つんだぞ」
「心配ご無用。そのうちぼくも出世して、ばんばんモンスター倒して、父ちゃん母ちゃんに楽させてやるからさあ」
「しかし、今のお前じゃ安心できんなあ。父さんがお前ぐらいの年には…」
「もう、わかってるよ。たった一人でドラゴンを退治したって言うんだろう。その話し100回くらい聞いたよ。ぼく、街に行ってくるからぁ」
「おい、マコト。人の話は最後まで聞くもんだぞ」
いつの時代でも、父親って、くどいんだよね。うんうん。ぼくはサッカーが好きなんだから、野球のことばっかり話さないでよね、お父さん。
さて、"マコト"が街に飛び出したはいいが、どこに行けばいいのかな。初めてだから、ちょっと、街を探索してみよう。画面に表示されているカレンダーを見ると、今日は日曜日のようだ。やっぱりファンタジー世界でも、日曜日は休みなんだろうな。"マコト"は、いかにも城下町らしい石畳の上を、どんどん歩いていく。結構広いじゃん。どうやら、お城の周りほど、お店が多いみたいだな。花屋さんや、レストランまであるぞ。でも、何の役に立つんだろう。
一通り、街を回ったのかな。また、自分の家に戻ってしまった。隣の家のおばさんが、庭の手入れをしているみたいなので、ちょっと話しかけてみよう。
「マコト君、彼女いるのかい? そろそろ、ガールフレンドの一人や二人いてもいい年頃じゃないの」
いきなり、そんなこと言われても、ゲーム始まったばかりだからなあ。ぼくなんか、この歳まで生きてきて、まだ彼女いないのに……。でも、分かったぞ。まず初めは、結婚相手を見つけなきゃいけないんだな。雑誌にも、そんなことが書いてあった。
あっ、もう7時だ。Jリーグの開幕戦、見なきゃ。アビスパ福岡は今年こそやってくれるはずだ。
とりあえず、「ワーネバ」はセーブしておこう……え? 「メモリブロックが足りません」だと? いったい何ブロック必要なんだ? マニュアル、マニュアル……10ブロックだって! FFVIIのデータは、しばらく消したくはないし。くぅ、最初にマニュアル読んどきゃよかった。明日メモリカードを買ってくるまで、電源つけっぱなしってのもなあ。ええい、しょうがない。電源OFF!! まだ、始めたばっかだしね。
3月X日
メモリカードを準備して、「ワーネバ」を最初からやり直す。今度は、名前を"アツシ"(きのう大活躍のアビスパの選手からとった)にして、血液型や星座も変えてみた。すると、昨日とは違うスタートのイベントが始まった。葬式のシーンらしい。母と子が祭壇を前にして、涙にくれている。
「あなた……残された私たちは、どうすればいいの……」
「必ず無事で帰るって、父ちゃん、言ってたじゃないか……」
泣き崩れる親子。母親の手には一本の剣がある。
「アツシ。これが、お父さんが死んだときに、身につけていた剣よ。この剣は先祖代々受け継がれてきた我が家の家宝。今日からこの剣はあなたの物よ」
アツシはスッと立ち上がり、家宝の剣を腰に差した。
「父ちゃん。ぼくも、父ちゃんみたいな立派な兵士に、必ずなってみせるからね」
いきなりディープだなあ。悲しい運命を背負わされちゃったよ。これじゃあ、前回の"マコト"の方が、気楽でよかったじゃん。
こんども、街の探索から始めることにするか。おっ、昨日と店の配置が違う。なるほど、イベントだけでなく町並みまで、プレイするたびに違うのか。じゃあ、さっきはなかったパン屋さんから行ってみるか。お店の女の子のグラフィックが表示されたぞ。
「いらっしゃいませ。焼きたてのパンをどうぞ」
可愛いじゃん、可愛いじゃん。コマンドに[話をする]ってのがあるから、ちょっと、この子とお話しよう。
「はじめまして。ヨウコといいます」
「ぼく、アツシっていうんだ」
「いま、ちょうどパンが焼きたてなの。たくさん買ってね」
もしかすると、ここでパンをたくさん買えば、いいことがあるかもしれない。都合いいことに、いくらかお金を持っているみたいだから、奮発するとするか。クロワッサンとメロンパン、バターロールにジャムパン、クリームパンだ。
「まいど、ありがとうございました」
でも、それだけだった。お金、損しちゃった。
店を出ると、街が夕焼けに染まっていた。時間が進んだってわけだな。こんどは、どこに行くかな。ちょっと町外れに行ってみよう。町外れは、繁華街と違って、怪しい店が建ち並んでいるぞ。なかでも、とびっきり怪しいのが、占いの店。いっちょ、入ってみるか。
なかには、水晶玉を前にして、おばあさんが座っていた。
「そなたは、何を占って欲しいのかな」
うーん。[恋人との相性]ってのが気になるなあ。これで行こう。あっ、パン屋のヨウコちゃんとの相性が見れるぞ。頼むぜ、おばあちゃん。
「そなたと彼女の相性は……」
恋愛………見向きもされないだろう。
結婚………かなりの困難を伴う。
家庭生活…あるのは苦労のみ。
相性度……10%
ガーン。最悪じゃんか。やっぱり名前がいけないんだ。"アツシ"じゃなくて、"マコト"だったら、このかわい子ちゃんと相性ぴったりだったに違いないのに。なんだか、やる気なくなっちゃったよ。もう、寝よう。
3月X日
ふと気づいた。最近、「ワーネバ」ばかりで、「鉄拳3」を全然やってないじゃないか。もっと平八を極めなきゃいけないのに、このまだと、友達に後れをとってしまうぞ。でも、やっぱり「ワーネバ」してしまう、今日この頃。
……
<以上>